新しい「当たり前」を作り続ける

Date - 2015.06.18

今回は、『日経ビジネス』より、服飾雑貨からメガネ業界に飛び込みJINS

を大ヒットさせた、ジェイアイエヌ社長の体験をお伝えいたします。

 

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▼縮小市場において成長を続けるJINS

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視力補正でメガネを使っている人、メガネを全く使わない人も含め、「す

べての人がメガネをかけることが当たり前の時代を作る」。

ジェイアイエヌの目標をこう語るのは、社長の田中仁氏。

 

田中氏は、視力補正用のメガネにとどまらない製品群を含む総称として、

「アイウェア」という呼称を使っています。そのアイウェア専門店

「JINS」の運営を、2001年から始めました。当時からの14年間でメ

ガネ市場は縮小しました。2000年には5674億円あった日本のメガネ

市場が2012年には4040億円まで減少しています。そうした状況下で、

JINSは成長を続けてきました。

 

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▼門外漢だから革新を起こせた

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田中氏は、1987年に服飾雑貨の卸業と製造を個人事業として始めまし

た。バッグや帽子、アクセサリーをデザインし、中国の工場に製造を依

頼していましたが、当初はメガネは手がけていませんでした。

メガネを扱おうと思ったのは、2000年に韓国ソウルの繁華街を散策し

ていた時のこと。「メガネ1個3000円。15分でお渡しします」という

日本語のポスターを見かけたことがきっかけでした。

 

メガネは当時、日本では1個3万円程度でした。ですが、価格が安けれ

ば、気軽にいくつも持つことができます。「アクセサリー感覚で身につ

けられるメガネがあってもいいんじゃないか」と田中氏は考え、服飾雑

貨の周辺事業という形でメガネを扱い始めました。

 

企画、製造から販売までを一貫して手がけるSPA(製造小売)ならば

5000円までは価格を下げられるのでは、と考えてのことです。当時メ

ガネ5000円は「業界の非常識」と言われましたが、そう言われれば言

われるほど「この業界にはチャンスがある」と思ったそうです。

 

一方で、メガネは視力を補正するもの。「アクセサリーと同様の考え方

が受け入れられるか」という不安もある中、2001年にJINS1号店を福

岡市の天神に出店しました。フレームとレンズ両方、メガネ一式で税抜

き5000円と8000円の2プライスでした。

 

業界の常識を打ち破ったこの戦略は当たりました。この時から、業界の

常識とは違う、9割の人が反対するようなところにビジネスの金脈があ

る、と思うようになり、「あたらしい、あたりまえを。」という、ジェイ

エイエヌの後のコンセプトが生まれます。その後レンズ込の低価格設定

が主流になっても、デザイン性で目新しさを追求し、2006年8月には

JASDAQに上場するまでに成長しました。

 

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▼熱海合宿でビジョン作り

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ところが、JINSの快進撃はここまででした。

既存店売上高が2007年後半から前年度比マイナスで推移し2008年、

2009年は2期連続で赤字。株価も低迷していました。ここで存在会を

見出さなければ存続する意義がない、と感じた田中氏は、2009年1月

に4人の幹部を集め、熱海で合宿しました。

 

そこで新たに設定したビジョンは「メガネをかけるすべての人に、よく

見える×よく魅せるメガネを、市場最低・最適価格で、新機能・新デザ

インを継続的に提供する」というもの。

 

ビジョン遂行のため、まずは価格を見直しました。フレームとレンズの

セット価格でも、実際はレンズで追加料金がかかるのが通例。そこで、

仕入れや販売方法を見直して、追加料金をなくしました。

新機能では「Airframe」という軽いフレームを開発。PCから目を守る

「JINS PC」や花粉から目を守る「JINS 花粉CUT」など、新たな製品

が生まれました。

 

レンズの追加料金をなくし、機能性を追求することで、ジェイアイエヌ

は再び成長曲線を描くことができたのです。

 

 

出典:『日経ビジネス』2015年4月6日号



「育児と仕事の両立」の次へ挑み続ける資生堂

Date - 2015.06.12

今回は、『日経ビジネス』より、2015年「助成が活躍する会社」ランキ

ングで2年連続1位になった資生堂の取り組みについてご紹介いたし

ます。

 

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▼想定上回り時短勤務が激増

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日経WOMANと日経ウーマノミクス・プロジェクトが実施した2015

年の「企業の女性活用度調査」。総合ランキングで2年連続1位に輝い

たのは、資生堂でした。

 

実は今回の調査の対象期間である2014年、国内に1万人いる美容部員

の働き方にメスを入れていました。育児のための時短勤務制度を取得す

る美容部員の数が、当初の想定を大きく上回ったことが背景にありまし

た。

 

2007年、美容部員が勤務時間を短縮する分、変わって顧客対応を行う

社員を店舗に派遣する「カンガルースタッフ制度」を設けました。2008

年には子どもが小学3年生を終えるまで時短で働ける体制も整えまし

た。結果、時短勤務の人数は急激に増加。2011年度には1000人を超え

ました。

 

一方、店頭の現場ではひずみが生じました。時短勤務の美容部員の多く

は夕方に帰る早番シフト。結果、昼ごろから閉店まで働く遅番は、独身

の美容部員に偏り、不満の声が漏れ始めました。

 

それを受けて人事部が打ち出したのが、時短勤務社員も原則として全員、

遅番や土日勤務のシフトに組み込むことでした。「美容部員たちのノイ

ズが起こることは覚悟していた」と人事グループリーダーの本多由紀氏

は語ります。そのため、半年以上前から入念な準備を始めました。

 

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▼営業部長と面談を予行演習

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まず、美容部員の上司に当たる営業部長に働き方の意図を説明しました。

さらに営業部長が時短勤務中の美容部員と個別に面談し、個々の状況を

考慮しながら、遅番や土日のシフトについて話し合うよう要請もしまし

た。事前に面談のロールプレイングを重ね、特別な理由がない限り遅番

の免除には応じないよう念を押しました。

 

その後、全国の美容部員向けに、勤務制度の変更を告げるDVDを配布。

冒頭のメッセージは、常務の関根近子氏からの次ようなものでした。

「当時は夢のようだと思っていた制度が、月日がたつにつれて『取るの

が当たり前』になり、感謝がなくなる。甘えが出てきたり、権利だけを

主張してしまったり。取らせる側も理解が不足し、双方に摩擦が出てく

るのはすごく残念なことだと思います」

 

当然社員は動揺しますが、そこで営業部長の出番です。個別の面談を通

じて美容部員の不安を受け止めつつ、各スタッフの状況を確認し、出来

る範囲で遅番シフトを取り入れるよう促しました。

 

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▼互いに配慮する理想の形に

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否定的な声も上がりましたが、「時短勤務制度を使いやすくなった」と

いう前向きな声も出ました。結局、この改革を機に退職したのは、約

1200人いる時短勤務社員のうち30人ほどにとどまりました。

周囲の部員にも変化が表れます。「育児中のスタッフの遅番を減らせる

よう、私が頑張る」など、互いに配慮する意識が高まり、理想の職場に

近づいたのです。

 

一方で、時短勤務中でも、キャリアアップを目指す社員には機会を与え、

希望があれば研修への参加も可能です。

「昔とは違って、今はどのような状況にある美容部員でも、やる気と実

力がある人はどんどん活躍できる」と語ります。

 

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▼コストではなく戦力に

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第2次安倍内閣によって、日本の成長戦略の柱のひとつと位置づけられ

た女性活用。女性が長く働き続けられる職場環境を整えようと取り組む

企業がふええいることは、今回の女性活用度調査の結果からも見て取れ

ました。

 

「美容部員をコストとしてでなく、価値を生み出すための戦力として考

えていきたい」

2014年12月の中長期戦略発表の席上、資生堂社長の魚谷雅彦氏は高断

言しました。現場に最も近い美容部員の戦力強化は、重要な経営課題の

一つと言えます。

 

育児と仕事の両立支援制度を整え、女性が働きやすい会社の先頭を走っ

ている資生堂。同社が周到な準備をして取り組んだ、育児を“聖域”とし

ない働き方改革からは、現在の女性活躍推進の流れの先に生じる壁と、

その打開策のヒントを垣間見ることができます。

 

 

出典:『日経ビジネス』2015年5月25日号



日本の現場は強くない

Date - 2015.06.05

今回は、『日経ビジネス』より、今や中国やタイ以下との声もある日本

の現場力の危機についてお伝えいたします。

 

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▼改善活動、実は逆輸入

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日本企業の現場力が崩壊の危機に瀕しています。

 

東日本に拠点を置く某音響機器メーカーの生産子会社A社。

グループの生産拠点の中でも屈指の優等生と見られてきました。

工場の中は5Sが行き届き、作業を効率化するための大小様々な工夫が

されています。

 

専門のコンサルタントを招聘し、QCサークルや改善活動を強化したの

は20年ほど前。2000年代後半になると、従業員からの改善提案が急増

し、コンサルタントも思わず舌を巻くほどでした。

しかし、それはA社の指導先である、中国広東省の工場からの逆輸入だ

ったのです。

 

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▼アイデアはすべて中国産

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東莞市郊外にある東莞工場はA社と同機種の廉価版を製造しています。

2000年代にA社が東莞工場のマザー工場となった当初は、日本から社

員が入れ替わり立ち代り現地へ赴き、様々なノウハウを移植しました。

しかし、2000年代中盤以降、東莞工場の改善提案数がA社を上回る逆

転現象が起き始めます。

 

東莞工場では、改善提案を出し採用されると5~100元(約100~2000

円)が至急されます。日本では見向きもされない額ですが、内陸部から

出稼ぎに来ている時給10元(約200円)の若い中国人従業員には大き

な魅力。1人あたり5件、工場全体で月8000件の改善提案を必死に出

してきます。A社はその中から使えそうな改善提案を見繕い、「自分た

ちで 考えたアイデア」として活用してきました。

 

そんな状況が日本の製造業全体で起きつつあります。

 

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▼9割の現場は「凡庸」以下

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社員が自発的に動き、生産効率や顧客満足度を上げていく。

現場力の強さこそが日本企業が世界に躍進する原動力だ、と現在も言わ

れています。

 

しかし、独コンサルティング会社、ローランド・ベルガー日本法人の遠

藤功会長は「その常識は幻想」と指摘します。

遠藤会長が全国の生産現場を行脚して得た結論は「今の日本に非凡な現

場は1割」でした。

 

遠藤会長が定義する「非凡な現場」とは、①「新しいものを生み出す能

力」②「よりよくする能力」③「保つ能力」を兼ね備えた現場です。

1割の非凡な現場を除く9割のうち、8割が「保つ力」しかない凡庸な

企業、最後の1割は「保つ力」すらないトンデモ現場だ、といいます。

 

①②を喪失すれば、A社のようにイノベーション力や改善力は失われま

す。そして③まで失うと、事故やミスは避けられません。

厚生労働省によると、製造業における死亡災害は2011年以降増加傾向

にあります。

 

現場力の劣化が進むのは製造業だけではありません。

あるチェーンストアのC店長は、自分の店の売れ筋を把握していないと

言います。本部からの指導に従っているだけ、思考停止したほうが楽だ

から、というのです。

 

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▼落ちるべくして落ちた現場力

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なぜ日本の現場はここまで弱くなったのでしょうか。

非正規社員の増加による職場の一体感の喪失や、若い世代に広がる個人

主義、また、リーマンショック後のベテラン技能工のリストラなどが要

因だと考えられます。

 

また、サービス業においては、不況による教育費の削減が最大の原因だ

と言われています。かつてのように、欧米のホテル学科を持つトップ大

学で学ばせたり、一流ホテルで研修させたりする動きはもうありません。

臨機応変なおもてなしなど無理な相談でしょう。

 

IT化もサービス業の現場力低下につながっていると指摘する専門家も

多くいます。予約はネット、自動チェックイン・チェックアウトマシン、

周辺スポット検索端末。自動化によって宿泊客とスタッフの会話は激減

しました。

 

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▼現場力低下は経営者の責任

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振り返ってみれば、現場力が低下した大本の責任は経営者にあると言え

ます。経費削減やリストラなどの負担を現場に押し付ける一方で、余計

な仕組みを導入し、従業員が仕事に真摯に向き合う時間を奪ってきまし

た。中には、「従業員も経営者意識を」と主張し、本来トップがやるべき

仕事を丸投げしている事例もあります。

 

「日本の現場は強くない」。

今こそ経営者はこの事実を直視し、現場力再構築へ自己反省とリーダー

シップの発揮に取り組むべき時が来たのです。

 

 

出典:『日経ビジネス』2015年5月11日号



早くも「就活疲れ」の異常事態

Date - 2015.05.29

今回は、『日経ビジネス』より、就職活動の現状についての記事をお伝

えいたします。

 

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▼早くも疲弊する学生たち

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「就職で挫折を感じています。今後もうまくいくのかどうか、不安で仕

方がない。」(学習院大学生)

「希望の企業の最終面接で落ちてしまった。そのショックで就活が手に

つきません」(中央大生)

など、早くも「就活疲れ」を起こしている学生が目立っています。

 

今シーズンの就活は、2015年3月に解禁されました。

8月の選考開始時期に向け、今はまだ序盤戦のはずです。

 

その大きな原因は、既に1年近くも就活を続けていることが挙げられま

す。

今シーズンの就活が事実上始まったのは、2014年夏のインターンシッ

プだからです。

 

昨シーズンまでのインターンシップとは違い、優秀な学生を早く確保し

たい企業側が、事実上の選考の場として位置づけたケースが多いのが今

シーズンのインターンシップの特徴。

さらに、冬休み期間には第2の山場を迎え、その後3月の就活解禁を経

ての5月の現在なのです。

 

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▼就活時期の二極化も要因に

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経団連の「採用選考に関する指針」で、選考開始時期が8月になったも

のの、この指針を守らず、5月~7月にかけて選考を始める企業が目立

っています。

一方で、学生から人気の高い大企業は指針通りに8月からの選考を始め

ることになっています。

 

昨夏と年初のインターンシップに続き、実際の選考時期が二極化したこ

とによって、2014年8月から2015年8月まで、12ヶ月の間断続的に

就活が続くことになります。

昨シーズンの就活期間は2013年12月から2014年の4月までの5ヶ

月だったことい比べると、2.6倍という異常事態なのです。

 

そもそも経団連は「学生が学業に専念できる時間を確保する」ために就

活の時期を後ろにずらしたのですが、むしろ就活は長期化し、学生が学

業に専念できる時間が大幅に減っています。

 

今シーズンのような混乱が続けば、企業と学生の双方が疲弊するだけ。

来年に向けて、解決ずべき課題は山積みと言えます。

 

 

 

出典:『日経ビジネス』2015年5月18日号



ママの就活 大学がサポート

Date - 2015.05.22

今回は、『日経ビジネス』より、専業主婦の再教育、再就職支援を進める

大学の取り組みをご紹介いたします。

 

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▼ママの背中を大学が押す

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専業主婦だった荒木登希さん(39歳)が、パーソナルスタイリストとし

て起業したのは2010年のこと。

アパレル経験を活かし、個人客の買い物に同行して洋服の選び方を提案

する同行ショッピングや、骨格診断に基づくファッションアドアイスな

どを行っています。仕事と家事・子育てのバランスは崩さないと決め、

同行ショッピングは午前と午後の2件まで、夕方には帰宅します。

 

専業主婦だった荒木さんが起業を思い立ったのは、関西学院大学のハッ

ピーキャリアプログラムで学んだことがきっけかでした。

子育てをしながら働きたいが、自分に何が出来るのかわからない、そん

な荒木さんが、スキルを身につけながら社会復帰する自信を取り戻すた

め、十数年ぶりに大学に通ったのです。

 

同プログラムは、職場復帰を目指す育児休業中の女性や、再就職・起業

を目指す女性のための準備講座。原則として大学を卒業した女性を対象

とした半年間の講座です。

受講生は30代から40代の主婦が中心。

2008年から始まったこの講座では、キャリアデザイン、ビジネスコミ

ュニケーションのほか、IT、英語、経営などのビジネススキルを学びま

す。これまで115人の修了生を輩出し、その多くが起業や再就職を果た

しました。

 

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▼再就職支援も手厚く

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関東圏でも専業主婦の再教育に熱心な大学があります。

日本女子大学は2007年、生涯学習センターに「リカレント教育課程」

と呼ぶ、主に主婦を対象にした再教育コースを解説しました。

就業経験のある4年生大学卒の女性を対象にした1年間のプログラム

で、英語とITリテラシーなどを必修科目としており、ビジネスの場に

必要なスキルを習得できるのが特徴です。

 

特に就業実績の高さが注目に値します。

これまで185人が終了していますが、就職を希望する人の内定取得率は

98%にも達しているほど。中年女性の採用に熱心な企業を大学が独自に

集め、合同企業説明会を年に2回実施してきました。

 

手厚いサポート体制を提供するのは、中年女性が希望する職に就くのが

極めて難しいからにほかなりません。年齢の問題だけでなく、専業主婦

のブランクの長さが企業の採用意欲をそいでしまっているからです。

いきなり正社員採用はまれですが、まずは非正規でもいいので再就職し、

実績を積む中で自信のキャリアプランを考えてもらっているのが実態

のようです。

 

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▼ママ友には相談できない

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リカレント教育課程で学んだ鈴木美佳さん(45歳)。

数年前から再就職について考えていたところに、リカレント教育課程の

存在を知りました。

 

大卒で会社員としての経験もある鈴木さんですが、20年近いブランク

があります。当時の職場にはパソコンは数えるほどしかありませんでし

た。だからこそ、大学で学び直すのは「戦場に出る前の兵士が武器を整

えるようなものだった」と鈴木さん。今では仕事の書類は1人で難なく

作成できるようになりました。

 

ママ友に相談すると、生活が苦しいのではないかと思われてしまうので、

再就職について相談できなかった鈴木さん。専業主婦という同じ境遇の

仲間が共に再就職を目指して励まし合う環境にいられたことが、大学で

学び直した何よりの財産になっているといいます。

現在は契約社員として総務の仕事をしている鈴木さん。今後は責任が重

くなっても正社員になりたい、と意気込みます。

 

女性の年齢別労働力率を見ると、20代が最も高く、30代から40代に

かけて低くなり、50代で再び高まっています。一昔前の日本社会では

寿退社が一般的で、「働きたい」というママの気持ちはないがしろにさ

れてきました。最近では徐々に解消されているとはいえ、一定額以上の

収入を得ると夫の配偶者控除を使えない、と、賃金水準の低い仕事に甘

んじている主婦がかなり多いのは事実です。

 

しかし、少子化で日本の労働人口が加速度的に減っていく中で、多くの

主婦が賃金水準の低い仕事にとどまっている弊害は今まで以上に強く

意識されていくはずです。その意味でも、大学が主婦層の再教育に積極

的に関わり、付加価値の高い仕事に就く女性を増やす取り組みは社会的

に意義があるのです。

 

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▼学費高く定員割れが続く

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少子化で定員割れの危機にある大学にとって、主婦を対象にした教育事

業は新しいビジネスとしても有望です。

しかしながら、関西学院大学のハッピーキャリアプログラムは必修科目

とキャリアカウンセリングで9万円、ITや英語なども含めると24万

6900円になります。日本女子大リカレント教育課程は入学金を含める

と26万もかかります。

 

そのため、両校とも定員割れが続く苦しい経営です。

学び直して再就職したいと思いながら、学費の高さに二の足を踏む人た

ちをどう呼びこむか。具体策が問われています。

 

 

出典:『日経ビジネス』2015年2月23日号