2015年新人対応マニュアル~前編~
Date - 2015.04.10
今回は、『日経ビジネス』より、今年の新入社員の傾向と対策について
の記事をご紹介いたします。
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▼二極化するトンデモ社員
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今年も新入社員が職場にやってくる季節が近づいてきました。
2015年の新入社員は二極化していると言われています。
警戒すべきは「ゆとり型」よりも「熱血型」だというのです。
2014年末、大手IT企業の人事担当A氏は、ある内定者の言葉に唖然
としていました。
「私には名古屋で祖父の介護というもうひとつの仕事があります。いっ
たん入社はしますが、研修期間後、地元以外の支店への配属が判明した
場合は、即刻退社いたします。」
大阪支店への配属を前提に内定を出した後で「介護に目覚めた」と、突
如名古屋支店限定の勤務を希望してきたのです。
「今時のトンデモ社員=ゆとり世代」と決めつけていたことを反省して
いるというA氏。ゆとり世代は、のんびりはしているが、本人に悪気は
ないため、粘り強い教育で組織に適応させることは可能でした。
でも今年は違います。ゆとり型がいる一方で、こうと決めたら一直線、
権利意識と我が強く、理路整然と自分の考えを主張する「熱血型のトン
デモ新人」がかなりいるのだそうです。
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▼挫折を知らない世代
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同じトンデモでも、ゆとり型より熱血型の方が、元気があって戦力にな
ると期待するかもしれませんが、それは大きな誤解です。
指導の際、最後は「つべこべ言わずにやれ」で言うことを聞いてくれる
ゆとり型と異なり、熱血型は自分が納得しないと動きません。「今はあ
えてスルー」などと、特定の業務を自分なりの正論で拒否する者を説得
するには理詰めで説明しなければならず、つまり面倒くさい。
組織のルールになじもうとしないゆとり型と、組織のルールを自分に合
わせようとする熱血型。極端な方向に二極化し、ますます扱いにくくな
りました。それにしても、なぜ二極化が進んだのか。
2015年入社組の親は1960年台に生まれた世代が中心です。その多く
はバブルを謳歌したいわゆる新人類と呼ばれた世代。受験戦争と管理教
育で育った反動で、とにかく子どもがやりたいことを許容し、応援しま
す。おとなしい子は奥ゆかしい。我が強い子は元気があって何より。
普通は挫折を通じて、ある程度丸くなって大人になるが、2015年入社
組は、挫折の機会自体があまりありませんでした。例えば就職。彼らが
就職活動を展開した2014年の内定率は、企業の採用意欲が高まり、2008
年のリーマン・ショック前の水準まで回復しました。
しかし、ゆとり型と熱血型混在の2015年入社組には大きな共通項が3
つあります。ひとつは「いきなり愛社精神が高いこと」です。
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▼現役社員より社内事情通
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空前の売り手市場、吟味に吟味を重ねて企業を選んできた彼ら。絶対ブ
ラック企業には入るまいと、多くの学生が匿名掲示板の元社員や現役社
員の声などから徹底的に研究し、その結果入社前から社内の実情に異様
に詳しい者も少なくありません。自ら選んだ最高の一社に入社した、と
いう意識が強いのです。
ふたつめの特徴は、「極めて安定志向が強いこと」です。
彼らは誕生前にバブルが崩壊し、「失われた20年」の中で人生を過ごし
てきました。高校入学の2008年にはリーマン・ショックが起き、大学
入学直前の2011年3月には東日本大震災が発生。日本列島にリストラ
の嵐が吹き荒れました。
父親がリストラに遭った人も多く、安定した生活への憧れが強いこの世
代。少くとも数年前までの新人のように「3年で辞める」という発想を
持つものは少ないとみていいでしょう。
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▼最大の関心事は「いいね!」の数
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3つ目の共通項は「他人からの否定を嫌うこと」です。
パソコンとインターネットが当たり前の時代を生きた彼ら。その結果、
多くはフェイスブックなどのSNSやLINEなどメッセンジャーアプリ
が完全に生活の一部になっています。
日常生活の最大の関心事は「いいね!」の数。承認欲求が強く、承認さ
れるかされないかに特に敏感な彼らは、ゆえに他人から否定されるとダ
メージを負います。
最初の2つの共通項に比べ、この「否定を嫌う」という3つ目の項目
は、入社後、育成してく上でネックになる可能性もありそうです。
では、2015年入社組が持つ3つの共通項を活かした教育法、および接
し方とはどのようなものか。その詳細は次号お届けします。
出典:『日経ビジネス』2015年3月30日号
年長者を立て、やる気アップ
Date - 2015.04.03
今回は、『日経ビジネス』より、長年増収増益を続けている伊那食品工業
会長の塚越寛氏が語る、人事制度への思いをご紹介いたします。
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▼年功序列こそ時代の最先端
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日本毛的経営の特徴だった年功序列制度が崩れ、成果主義や能力給が広
まって久しい。しかし特定の故人やチームだけを評価すると、職場の雰
囲気はギスギスしてしまう。
「自分の成績さえ良ければいい」と、協力をしなくなる。そして、成績
不振の部署や同僚に溜飲を下げ、成績の悪い年長者を軽んじる風潮が広
がる。
私は、全社一丸となった時こそ、最大の能力を発揮できると信じている。
成果主義や能力給では、全社一丸となるのは難しい。
そもそも突出した成績を出したとしても、その個人やチームだけで成し
遂げたものはなく、先輩やOBが長年かけて築いた会社の信用やブラン
ド、周りのバックアップがベースにある。
そうした長年の積み重ねが開花した時に、その個人やチームだけを優遇
する制度は間違っている。
当社では昔ながらの年功序列型の人事制度を頑なに守っている。勤続年
数の長い社員に、より高い給料を支払うことで、安心感を持って仕事に
挑める職場を整えている。
穏やかな人間関係の中で、のびのびと仕事をしたがっている今の若い人
たちに適した職場環境だ。
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▼ライフステージに合わせた制度
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年功序列は社員のライフステージにも合致している。
年齢を重ねるごとに家系の負担は増える。それに合わせて給料も増えて
いけば無理の無い暮らしが送れる。
子どもが優秀なのに、親の能力給が低いために満足に教育を受けさせら
れないのは国家的な損失だ。年功序列とは、子どもたちに等しく教育の
機会を与える制度でもある。
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▼年功序列でもモチベーションアップ
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私は社員たちに甘えを許しているわけではなく、常に高い目標に挑んで
もらいたいと思っている。年功序列制度であってもそのような動機付け
は可能だ。会社に所属していることで少しずつ幸福になれば、頑張ろう
と思えるものだ。社員たちの幸福度を増やすためにも、勤続年数に応じ
て少しずつ給料を増やしていけば、仕事のモチベーションは高まる。
社員が幸せを感じるのは、給料が増えた時だけではない。会社の周辺に
庭園を整備するなど、少しずつ職場環境を改善させていくことも、幸福
度の向上につながる。
成果主義や能力給で社員の尻を叩かなくても、社員のやる気は引き出せ
る。年功序列こそ、古くて最先端の人事制度ではないか。
出典:『日経ビジネス』2015年2月16日号
貧困対策の真価 眠れる潜在力を呼び起こせ
Date - 2015.03.27
今回は、『日経ビジネス』より、貧困対策を投資と捉えた取り組みをご
紹介いたします。
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▼奨学金の返済を肩代わり
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従業員の奨学金返済を肩代わりするのは、メガネ店を展開するオンデー
ズ。昨年「奨学金編金融債制度」を導入しました。奨学金の変換を続け
ている従業員に、返済分を毎月の給与に上乗せしています。
現在、大学生の半数が奨学金を受け、返せない人も増えています。そし
て、奨学金の返済のために、やりたい仕事ではなく、初任給が高い企業
へ就職している学生もいます。その実態を知ったことで、田中修治社長
はこの制度導入を決断しました。
同社は採用の際、仲介業者を利用することもありました。
「そうした事業者に100万円の成功報酬を払うなら、社員に直接還元し
たいと思った」と田中社長。従業員の定着に一役買うとの判断もあるそ
うです。
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▼「貧困投資」はペイする
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国立社会保障・人口問題研究所の安倍彩・社会保障応用分析研究部長は、
貧困対策について、次のように試算しました。
20歳から65歳まで生活保護を受給した場合、コストは5000~6000万
円になります。一方、職業訓練などの支援プログラムを2年間実行した
とすると、費用はおよそ460万円かかります。しかし、それによって非
正規でも20歳から65歳まで働き続けることができれば、税金や社会
保険料の納付額は2400~2700万円ほどになり、正規雇用の場合は4500
~5000万と考えられます。
もっとも、生活困窮者にお金をかけることには根強い反発もあります。
しかし、心情的な反発をしていても事態は改善しません。
むしろ、そうやって効果的な支援を怠ってきたから、ここまで貧困が拡
大してきたとも言えるでしょう。
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▼外資が追求する「効果」
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ゴールドマン・サックス証券は、「コミュニティ支援プログラム」と題
して、貧困の連鎖の撲滅に向けた社会貢献活動をしています。
活動の原資は、持田昌典社長を含む日本法人の経営陣役10人が拠出す
る私費です。
特徴は、活動内容に対する評価を厳密にしている点にあります。外部の
NPO法人に活動内容の評価を依頼し、効果を可能な限り可視化する仕
組みを取り入れています。実際、高校生への奨学金プランは「現行の高
校2年生への塾代支援はあまり効果的でない」として今期から打ち切
り、その代わり大学に合格した場合は自動的に4年間、奨学金を給付す
る方式に改めました。
「人々の所得が増え、国の経済成長につながることが重要だ」と持田社
長は語ります。自社の成長余地の拡大になる、ということなのです。
若年支援に積極的に関わってくれるのは外資系企業ばかりで日本企業
は理解が遅れている、との声もあります。
「優秀な人材を確保するためにも、企業は再び、社員の私生活にも一定
の責任を感じるべきではないか」と、先出の阿部部長は語ります。
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▼悪平等を超えた指導
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行政でも貧困解消を投資と位置付けた取り組みが始まっています。
低所得の家庭に支給される「就学援助費」の認定率が、全国平均の2.4
倍ある東京都足立区。ある区立小学校では3~4年生のうち学習内容に
つまずきがある子どもに対して週に1回、別室で1対1の個別指導を
しています。
「公教育で一部の子だけに特別な指導をしていいのか」等の懸念もあり
ますが、弘道第一小学校の小池康之校長は意に介しません。
「公教育の最大の目的は、学力の保障。授業が分からない生徒を放置す
ると、その後の学習すべてに影響する。あやまった平等意識にとらわれ
て必要な対策をためらってはならない」と。
指導員への報酬は区が負担しています。2014年度にモデル7校で始ま
ったものを、すべての小学校69校に拡大するため、2億4795万円の予
算をつけました。義務教育で十分な学力がつかず、高校中退などで社会
にでることになれば、満足な収入を得るのが難しいという認識のもと、
この学習支援を貧困対策と位置づけています。
勉強も、社会生活も、もともとできる子とできない子はいます。 “でき
ない存在”を見てみぬふりして置き去りにすればするほど、困窮者は増
えていきます。しかし、支援によってそのうちの一人でも多く“できる”
側にすることができれば、社会は恩恵を受けるのです、必要なのは哀れ
みではなく、冷静な大局観なのです。
出典:『日経ビジネス』2015年3月23日号
カイゼンの主役は「おばちゃん」
Date - 2015.03.20
今回は、日経ビジネスオンラインより、セル生産方式を導入し、カイゼ
ンを進めたサンドイッチ工場をご紹介します。
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▼カイゼンはシンプルに
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ホテルオークラや京王百貨店、タリーズコーヒーといった取引先に納品
しているサンドイッチ・メーカー「サンド・サンド」の千葉工場。120
~130種類を毎日、合計8000食ほど生産している、絵に描いたような
多品種少量生産の工場です。
この工場のカイゼンを指導しているのが、中小企業診断士・ムダとりコ
ンサルタントとして活躍している、石出利男氏です。石出氏は、1991~
2005年頃まで続いたソニーの生産革新を推進した1人です。
実はこの工場、現場で働く約100人のうち、管理者の数人を除いて全員
がパート。カイゼンは、正社員でも覚悟が要ることですが、それをパー
トの方々だけでやっているのです。
サンドイッチの生産ラインには、大きく4つの工程があります。
(1)ベルトコンベヤーにパンを投入。
(2)具材をパンに載せる。
(3)できたサンドイッチをカットする。
(4)カットしたサンドイッチを袋に詰める。
1人の作業者が1個を処理するのに掛かる作業時間が異なると、製造途
中の製品(仕掛品)が滞留したり、作業者が何もしないムダな時間が発
生したりします。石出氏がこの工場を指導し始めたばかりの頃は「カッ
ト」がムダを生む工程でした。熟練の技が必要な工程で、他の工程に比
べ、長い時間を要するからです。そこでまず、具材を載せていた作業者
1人をカット担当に回した結果、仕掛品はほとんどなくなりました。
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▼セル生産ラインでさらなるカイゼン
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このカイゼンはまだまだ序の口で、このラインの横に、「セル生産ライ
ン」を作りました。ラインといっても作業者は1人。セル生産では1人
や2人と少人数でモノを作るのが特徴で、必要な場所もコンパクトで
す。
セル生産ラインは、石出氏が勤務していたソニーで1994年ごろに誕生
したもので、モノを作る工程のすべてを少人数で実施します。たくさん
作らなくてよい場合非常に効率的です。
作業工程は
(1)パンを作業台に載せていく。
(2)具材をパンに載せて、先ほどのパンの上に載せる。
(3)カット。
(4)梱包。
こうすると、作業者の手が止まることなく動き続けます。セル生産のす
ごさの1つは、この「手待ちがない」ことなのです。
この方式に変えただけで、同じ個数を作るのにかかる時間が以前の3分
の2になりました。皆でラインに入って作った方が速いと思っていまし
たが、違いました。
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▼パートさん主体のカイゼン
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こうしたカイゼンは、6人の「精鋭部隊」によって進められています。
その6人はもちろん全員パート。しかも、同社では「パートは社長より
エラい」(藤川社長)というのです。
サンド・サンドはもともと、パンの製造と販売を手掛けていた会社のサ
ンドイッチ生産部門(子会社)として1992年に誕生しました。藤川社
長がその親会社からやってきて、社長に就任したのが2004年。そのた
めパートの中には、社長よりもずっと社歴の長い人がたくさんいます。
一方的なトップダウンや、コンサルタンと主導のカイゼンは難しいと判
断した藤川社長と石出氏は、根気よく待ち、8ヶ月をかけてカイゼンを
進めていきました。
石出氏はこう説明します。
「パートさんに辞められたら、困るのは社長です。働き手がいなくなっ
ちゃいますから。だから、少しずつカイゼンの効果について学んでもら
って、彼女たちから『やってもいいかも』と言い出してくれるのを待ち
ました。」
この工場にやってきた時は親会社に送り込まれた「雇われ社長」だった
藤川社長。2007年、その親会社が経営難に陥りました。「100人の従業
員が路頭に迷ってしまうか」。と、銀行から個人で資金を調達し、工場
を買い取ったのです。そのため現在は代表取締役のオーナー社長です。
「パートとはいえ、ここは彼女たちが慣れ親しんで働いてきた場所。男
性も何人かいました。そんな人たちから働く場所を奪うことができなか
った」
カイゼンの背景には人間ドラマがあるのです。
出典:「日経ビジネスオンライン」2015年2月26日
ヒット連発、組織に秘策
Date - 2015.03.13
今回は、『日経ビジネス』より、ノウハウを組織的に積み上げてイノベ
ーションを効率的に起こしている、レゴの秘策をご紹介します。
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▼「汎用品」から「ストーリー」へ
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「イノベーティブな会社」の代名詞、アップルやグーグル。いずれもカ
リスマ創業者が画期的な製品を生み出し、イノベーションの源泉はカリ
スマその人であると見られがちです。
世代を超えて熱狂的なファンを抱えるという点ではアップルに勝ると
も劣らないレゴ。しかし、レゴというブランドは、カリスマ技術者やカ
リスマデザイナーなど特定の個人を連想させません。
レゴの魅力は、ブロックを自由な発想で組み立てて遊べるところ。従来
は「基本セット」と呼ばれるブロックのまとめ売り商品が売れ筋でした。
一方、現在の主力商品は「プレティーマ」シリーズ。「スターウォーズ」
や「フレンズ」という具合に、特定のストーリーに基づいた作品を作っ
て遊びます。年間収益の6割はこのプレティーマが支えています。
かつて特許で守られていたブロックが、2004年に汎用品となったこと
で破綻の瀬戸際に追い詰められたのをきっかけに、ストーリーの付加価
値をつける仕組みを作り上げました。そして、ヒットの打率を上げる独
自の方法論を実践し、成果を上げています。意図的かつ継続的にヒット
を生み出す仕組みを作り上げたからこそ、今のレゴがあるのです。
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▼革新の見取り図
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レゴ社内では、製品の企画開発の際には必ず「イノベーション・マトリ
クス(イノベーションの発生源)」と呼ばれるチャートを使用します。
横軸は「企画」「レゴの開発・製造」「マーケティング」「収益化」という、
新商品を生み出す際の流れ。縦軸はイノベーションの起こし方を「(既
存のものを)改善する」「組み合わせる」「全く新しく作る」の3段階に
分けて示しています。
新商品開発では、責任者は各段階でどのようなイノベーションを起こせ
るかをマトリクス上に細かく書き込んでいきます。ポイントは、開発だ
けでなく、企画から販売までの全ての活動を「イノベーション要素」と
して位置づけることです。
例えば昨年発売した「レゴムービー」シリーズでは、最大のイノベーシ
ョンは製品ではなく、オリジナル映画の公開にありました。例年最もビ
ジネスが停滞する2月に映画を公開することで、新たな売上の山を作り
出そうと考えたのです。結果的に映画は大ヒット。現在は続編に向けた
活動が始まっています。
レゴにとってこのマトリクスには3つの意味があります。
1つは、イノベーションを起こすべき対象を、ブロックの開発製造だけ
でなく、企画からチームづくり、うり方、儲け方、全てのビジネスの要
素に広げたこと。
2つ目は、小さな改善もイノベーションと位置づけたこと。ロングセラ
ー商品の多くは小さな改善の積み重ねで開発されました。
そして3つ目が、ヒットを生み出すノウハウの可視化と蓄積。2006年
から開始したこのマトリクスは、製品ごとに蓄積され、開発後も記帳な
データとして活用されています。
従来は個々のプロジェクトに閉じていた製品開発の全工程を一覧でき
るようにしたことで、ノウハウが可視化され、全員に共有された結果、
ヒットが継続するようになりました。
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▼ファンを取り込む
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このマトリクスは主力商品の継続的なイノベーションには適していま
すが、実験的な製品のアイデアを生み出すのには不向きです。
そこでレゴは新製品開発にもう一つの仕組みを用意しました。
「レゴ認定プロフェッショナル」と呼ばれるファンらを頂点とした、フ
ァンのピラミッドを組織し、共同開発者として活躍してもらうなど、
様々な形で製品開発に生かす仕組みです。
ファンの間で“神”とも称えられる突き抜けたファンを取り込むことで、
社内では生まれない革新的な製品の開発につながります。
さらに、ごく一部の熱烈なファンではない、一般のレゴユーザーの取り
込みにも挑んでいます。インターネット上でファンが「自分の欲しいレ
ゴ」を制作し、投票によって製品化を決める、というもの。投票者はそ
の製品がほしいという意思表示とともに、「いくらなら購入する」とい
う質問にも答えます。
熱烈な支持者から一般のファンまで、ピラミッド全体を巻き込んだ開発
の仕組みが構築されつつあるのです。
製品開発におけるイノベーションの要素をマトリクスに分解して管理
することで、主力製品のヒット率を上げられます。そしてその枠にとど
まらない新製品の開発には、顧客の知恵を借ります。レゴは今、組織の
力で継続的にヒット製品を生み出しているのです。
出典:『日経ビジネス』2015年2月16日号