今いるメンバーが最善かつ最高である

Date - 2018.03.28

今回は320日の「日経ビジネスONLINEからのご紹介です。

 

株式会社武蔵野の小山昇社長のコラムです。

小山社長は、1948年山梨県生まれ

東京経済大学を卒業し、

76年にダスキンの加盟店業務を手掛ける

日本サービス・マーチャンダイザー株式会社(現在の武蔵野)に入社。

89年に社長就任。

赤字続きの「落ちこぼれ集団」だった武蔵野で経営改革を断行。

2000年、10年と日本経営品質賞を2度受賞する優良企業に育てています。

現在550社以上の経営を指導。

著書に『小山昇の失敗は蜜の味 デキる社長の失敗術』(日経BP社)など。

 

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「部下が使えない」と愚痴をこぼす管理職は無責任

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私はときどき、管理職からこんな陳情を受けることがあります。

「部下の××くんがどうにも使えない。異動させてほしい」──

「部下が使えない」というのは多くの管理職に共通する悩みです。

あなたも同じように思うことがあるでしょう。

思うばかりか、実際にそう訴えた経験もおありかもしれません。

一般に中堅・中小企業は社長と管理職との距離が近いため、

人事のようなデリケートな問題も、

このように比較的フランクに話すことは珍しいことではありません

 

では、ここで問題。

「部下を異動させてほしい」という、

あなたの希望を社長はいったいどう聞くでしょうか。

 

端的にいいましょう。

社長は「やれやれ、厄介なことになっちゃったなあ」

と思って聞いています。

まあ、どう控えめに言ってもポジティブな意味ではないですよね。

つまりあなたは建設的な提言のつもりで

「異動させてほしい」と言っても、

社長はそうは受け止めてくれないです。

 

なぜあなたの至誠(?)を社長は理解してくれないのでしょうか。

理由はふたつあります。

 

理由の1

そもそも中堅・中小企業においては、人事はトップの特権で、

社長は「管理職が差し出がましいことを言うんじゃない」

と思うからです。

と、このように(あえて)挑発的な書き方をすれば

反発もあると思いますが、

この勝負、あなたに勝ち目はありません。

会社で一番繊細に組織を見ている人間は、社長です。

人材を采配する「目」はあなたより絶対に確かです。

 

理由の2

社長は「部下の××くんが使えない」ことくらいすでに百も承知で、

それをなんとか使える人材にまで育ててくれという思いで、

あなたに「預けて」いる。

私の過去の連載をお読みの方なら、

管理職に期待されている最大の仕事のひとつが、

人材育成であるとご承知のはず。

だから

「部下の××くんが使えない」

と愚痴るだけでも相当に無責任な話なのに、

「異動させてほしい」

とまで言うのは

「私は管理職としての義務をまっとうしません」

と宣言するに等しい。

 

ね、こう聞けば社長が渋い気持ちになるのも理解できるでしょう?

 

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「この部下は使えない」 その思いは態度に出る

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私は、わが社の管理職が部下の異動を願い出てくるたびに、

「あなたが変わりなさい」

××くんが『使えない』のはとっくにわかってる。

それを『使える』ようにするのが君の仕事だろ」

と叱ってきました。

 

とはいえ実は、

最近の私は「まあいいか」と判断できるケースについては

なるべく希望に沿うよう、つまり異動させることもあります。

なぜなら、現実問題として、

××くんが使えない」

などと平気で口にできる管理職が、

この先も彼の面倒をきちんと見るでしょうか。

果てしなく疑問ですよね。

そんな管理職の下に××くんを置いたままにしていたらどうなりますか。

リソースが無駄に垂れ流されるだけではありませんか。

 

いや、リソースが無駄になるだけならまだましです。

よく言われることですが、心は行動を規定する。

だから「使えない」というネガティブな気持ちはしばしば、

管理職としては感心できない態度となって現れます。

無視したり、人格的な罵倒をしたりとかね。

直属の上司からそういうことをされた部下はどうなるか。

言うまでもないですね。

仕事が面白くなくなり、会社が嫌になって辞めてしまう。

特に最近の若い社員はストレス耐性の低い人が多いのです。

 

従来、中小企業は無責任で、

「上司と部下、相性が悪くてもしかたがない」

「それで部下が辞めてもやむなし」

「辞めた人材は、また募集をかけて補充すればいい」

などと考えている節(ふし)がありました。

しかし、大変な人手不足の状況が続く現在は、

もはやそういう時代ではない。

辞めた人材の補充は利きません。

 

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「使えない奴だ」と思っても教育の手をゆるめない

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以上を簡単にまとめるとこうなります。

管理職が

「部下を異動させてほしい」

は本来的には越権行為であり職務の怠慢で、

社長としてはその場で叱ってもいい事柄である。

しかしそれをすると部下の退職という、

もっと好ましくない事態を招いてしまいます。

これは社長としては結構なジレンマです。

本稿冒頭で

「(社長は)厄介なことになっちゃったなあ、と思う」

という内容の記述をしたゆえんはここにあります。

 

あなたが今以上の引き立てと出世とを望むのならば、

社長のこういう気持ちをよくよく汲み、

よく理解したうえでの業務遂行を心がけておく必要があります。

すなわち、社長の決めた人事にいちいち不平不満をいわない。

部下の出来・不出来にかかわらず差別をしない。

「使えない奴だ」と思っても教育の手をゆるめない。

 

なにより大切なのは、

「今いるメンバーが最善かつ最高なのだ」

と、自分にいい聞かせ、心に刻んでおくことです。

これは前述の「心は行動を規定する」とも密接に関係します。

「使えない」××くんが

あなたの思惑通りに異動になったからといって、

彼を上回る人材が入ってくることはほぼあり得ない話なのですから

少なくとも現在の中堅・中小企業では。

 

 

今回は、中堅・中小企業の管理職の方に向けたコラムでしたが、

注意深く読んでいくと、社長のあり方や、

部下の意識の持ち方にも参考になる部分が多くあったと思います。

絶望的な捉え方をするのではなく、

「今いるメンバーが最善かつ最高である」という視点の変換として

参考にしていただけると幸いです。

 

 

 

出典:日経ビジネスONLINE