日本を救う子宝企業 コマツの挑戦

Date - 2015.03.06

今回は『日経ビジネス』より、地方創生の取り組みを通じて産める環境の

拡充に務めているコマツの取り組みについてご紹介いたします。

 

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▼コマツは石川の子供数が1.9人

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今回は『日経ビジネス』より、地方創生の取り組みを通じて「産める環境」

の拡充に務めているコマツの取り組みについてご紹介いたします。

 

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▼コマツは石川の子供数が1.9人

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日経ビジネスが実施した企業子宝率調査では、男性を中心とした東京の

大企業モデルが少子化に拍車をかけている現実が浮かび上がりました。

少子化の“主犯”とも言える大企業ですが、改革に乗り出す大企業も現れ

ました。石川県小松市を発祥とする、コマツです。

 

コマツでは現在、大卒地域採用を実施しています。始めた理由の1つが、

女性の平均子供数が、東京本社は0.7人に対し、石川地区では1.9人と、

歴然とした差があったから。30歳以上の既婚率も、東京は50%で石川は

90%。また、働くお母さんが多いのも特徴的です。生活コストの低さや待

機児童の少ない環境、一緒に住む親の存在が支えになっています。

子育てを巡る企業内格差が判明しました。

 

コマツは社員研修を行う教育部門や購買部門も、順次東京の本社から石

川に移しました。地元採用を提唱した野路國夫会長は、「ずっと工場で働

きたい人も多いため、地域とグローバルの基準に採用を分けた」と話しま

す。会社の競争力は「東京の本社ではなく小松の現場。工場と顧客がつな

がっていれば無駄が一切ない」と言い切ります。

 

日本全体の出生率は九州、沖縄の離島地域が高位。

それについて「理由は生活環境。東京を地方のような環境にするのは無理

なので、企業が地方で社員を増やせばよい」と逆転の発想を口にする野路

会長。

この取組みが、ひいては「地方創生」になると確信しています。

小松市周辺はコマツに部品を供給する企業などが多数あります。

地元回帰のこの決断は、雇用増大を通じ、地域の出生率上昇に寄与する公

算が大きいのです。

 

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▼出生率の差は生活環境の差

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先進国では人口の維持に2.1程度の出生率が必要で、政府は1.8程度を理

想の目安としています。日本で出生率が1.8を超える110の自治体のう

ち、8割を九州・沖縄が占めています。

 

鹿児島県徳之島は、3自治体がトップ10に入る子宝地域。高齢化に伴う

人口減少という計算上の分母にも起因してはいるものの、まさに東京都

は180度異なる生活環境が出生率を押し上げていました。

 

出生率2.81と国内最高の鹿児島県伊仙町。町民に子宝日本一の要因を聞

いたアンケートでは、「親や兄弟、友人、近所に子育てを支援する人がい

る」が1位になりました。

大久保明町長は「夫婦だけでは産めない。親子3代が近くにいる集落の

力が大きい」と語ります。

 

人口減少への有力な処方箋になる「脱東京モデル」。先端を走るのは沖縄

県です。県別の出生率は20年連続で全国首位に立ち、2014年は全国の

平均1.43を0.51ポイントも上回る1.94となりました。徳之島と同様に

生活環境が出生率上位の主因です。

 

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▼高い開業率が出生率を底上げ

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沖縄の出生率が突出するのは他にも隠れた理由があります。全国で群を

抜く「開業率」の高さです。

政府が2014年に発表した中小企業白書によると、新しく開業した企業の

数を、地域にある会社で割って算出する数値は、沖縄が10.4%と最も高

く、新しい雇用が生まれやすいことが判明しました。

 

沖縄は東京からの移住者の受け入れも活発に進んでいます。宜野湾市の

海岸沿いにある「宜野湾ベイサイド情報センター」では、若者がこぞって

プログラミングに励んでいます。仕掛け人は東京のサイバーエージェン

ト出身、臼井隆秀氏。6年前にITベンチャーの琉球インタラクティブを

起こし、今年からスマートフォン向けのゲームやウエアラブル端末を使

うヘルスケア事業への参入も計画しています。

 

臼井氏は、「沖縄にビジネスチャンスがあると考えて起業した。大都市か

らの移住希望者が多かったのはうれしい誤算」と笑います。既に70人近

い新規雇用は、地域にとって、間違いなく新しい家庭の蕾になります。

 

政府は2015年度に地方創生の施策を本格化し、地域の再生を目指しま

す。石川や沖縄の例が示すように、仕事があれば人が集まり、そうすると

子供が生まれます。地域が活性化すればさらに職が増えます。こうした好

環境のサイクルを幅広い地域に根付かせることが地方創生の一歩になる

のです。

 

脱東京の萌芽は見え始めています。人口減の日本を救う可能性も十分秘

めています。

 

 

出典:『日経ビジネス』2015年3月9日号



事業開発、営業強化、成果生む仕組み作る

Date - 2015.02.27

今回は、前回に引き続き、「働きがいのある会社」上位の会社で、仕組み

をうまく定着させた事例をご紹介いたします。

 

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▼社員交流の場から新規事業を育成

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「働きがいのある会社」上位企業に共通しているのは、従業員のコミュ

ニケーションを活発にするだけでなく、新規事業やコスト削減などの経

営に直結する成果につなげている点です。IT企業のボヤージュグルー

プは、それを促す仕組みを数年がかりで作り上げてきました。

 

ボヤージュグループが2014年秋に発表したスマートフォンアプリ「ポ

ケットIR」。1分足らずで企業の業績とプレスリリースを確認できるこ

のアプリの開発者渡辺さんは、「既存の組織からは生まれなかった」と

振り返ります。

 

渡辺さんは、自身にも、所属する部署にも、アプリ開発の技術はありま

せん。そんな渡辺さんのアイデアを形にできたのは、グループ内の別会

社に所属するデザイナーとエンジニアの手助けがあったから。「ボヤー

ジュラボ」と呼ばれる新規商品の開発制度がそれを可能にしました。

 

スタートは交点を作ることでした。2006年に始めたグループを挙げて

の運動会。営業日の丸々1日を使って汗を流すこの日に、違う部門の社

員の顔を覚えることも珍しくないそうです。青柳智士CCOは「ネット

の世界は事業の移り変わりの速い。ある事業から撤退しても、新しい事

業で活躍してもらうためには、こううつながりが重要だ」と話します。

 

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▼「社長へ直言OK」」が営業力強化に効果

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電力や鉄道などのITシステム構築を手掛けるアクロクエストテクノロ

ジー。同社では、誕生日の人に社員全員がそれぞれ、その人のイメージ

に合う花を考え、1輪ずつ贈る「花一輪」と呼ぶ制度があります。プロ

ジェクトの壁を超えて社員同士のコミュニケーションを促すことが狙

いです。

 

同社の社員は、この他、風通しの良い職場にも魅力を感じています。例

えば、入社1年目から、自分の給料にさえ意見できる場が用意されてい

ます。社員たちは出身大学の研究室で自社の魅力を伝え、後輩を誘い、

数珠つなぎで優秀な人材が集まってきています。

 

自由に意見を述べられる場作りは、開発体制にもそのまま生かされてい

ます。全社員が社内の掲示板で毎日の仕事を報告し合い、そこで挙がっ

た課題は、その分野に詳しい社員が解決策を提示します。会議の議事録

もリアルタイムで掲示板に掲載されるため、会議に出なくても参加でき

ます。

 

それぞれ専門分野がバラバラのIT企業であるにもかかわらず、営業先

で専門外のことを相談されても、詳しい別の社員とすぐに連携してくれ

る、という安心感があるからこそ、営業力が高まり、新たな仕事を呼び

込めているのです。

 

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▼1000の業務に価格設定し無駄を削ぐ

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毎年上位に食い込むディスコは、働きがいのある会社を維持するために

日々改善を続けています。その元となるのが社内通貨「Will」。全ての部

門でWillを使った部門別採算制度を導入しました。

 

毎朝10時に、自分の「支出」と「売上」が記されたメールが届きます。

その数字を黒字化すべく、日々の業務に励むのです。

1000にも及ぶ社内の業務は全てWill単位で値段を付け、社内であって

も見積りやオークション形式で入札します。繁忙期や急ぎの仕事、人気

のない仕事には高値がついたり、逆に社員がどうしてもやりたくて無料

で引き受けることもあります。自らの意思で受注するため、納得感が生

まれ、働きがいの向上につながっています。

 

仮想貨幣と仕事を連動させることで、時短勤務の社員も働きやすくなり

ました。育児休暇から復帰したばかりで残業できない社員は、残った仕

事を同僚に引き継ぎし、その分の対価をWillで支払います。それによ

り、先に帰ることに対する後ろめたさを解消し、同僚もやらされ感を持

たずにすみます。

 

時短勤務であろうと、フルタイムの社員同様にWillを稼ぐことが求め

られるため、新たな仕事に挑戦する人もいます。これは、Willの制度が

なければ起きないこと。今では1500億Willが社内でやりとりされるな

ど活発に使われています。

 

これらの企業が実践する仕組みは一朝一夕には実現しません。経営者は

常に社員へメッセージを発信し続け、浸透を図っています。施策を次々

と取り入れ、試行錯誤を繰り返すことで、働きがいにつながっているの

です。

 

人手不足が深刻化する中、成長を遂げるためには組織に所属する喜びを

社員に提供することが不可欠です。いかに選ばれる会社となるか、時間

的な猶予はそれほどありません。

 

 

出典:『日経ビジネス』2015年2月16日号

 

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「働きがいのある会社」ブラックとはもう呼ばせない

Date - 2015.02.20

今回は、『日経ビジネス』より、先日発表された2015年版「働きがいの

ある会社」上位に選ばれた会社の取り組みについてご紹介いたします。

 

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▼コミュニケーションで働きがいUP

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大企業部門で9位にランクインしたDHLジャパン。

2014年6月から、ドライバーたちが配達に出かける前に情報共有をす

る場を設け、現場で起きた問題やその原因、解決策までを毎日話し合っ

ています。以前は5分程度の朝礼で、上司が一方的に業務連絡していま

したが、これを始めてから仲間とよく話すようになり、チームで助け合

う機会も増えました。

 

9位入賞は、「業務時間の8割が孤独」とされるドライバーたちがコミ

ュニケーションを深める時間を設けるなど、現場の士気を高める取り組

みが評価されたものです。

 

しかし本の数年前までは違いました。大規模なリストラにより、人員と

業務量のバランスが崩れ、社員の負担が増加。他人や他部署への悪口が

横行していました。

そこで取り組んだのが、日常的に議論する場作り。

2012年に通関部門で導入して以来、カスタマーサービスやドライバー

にも対象を広げ、数年がかりで進めてきた地道な取り組みの成果が今回

のトップ10入りでした。

 

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▼私ばかり働いている病

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極度な繁忙は「働きがい低下」の病を引き起こしがちです。

小規模部門19位のブルームダイニングサービスは、「私ばかり働いてい

る病」に悩んでいました。これは、部門間の情報共有不足により、自分

だけに仕事が集中していると感じ、社内の雰囲気が悪化する病です。

 

2006年の会社設立時は1店舗で、従業員も10人ほど。しかし、他店舗

展開により、一気にきしみが露呈しました。とりわけ1年で6店舗を出

店した2011年は、5人採用した新人が全員辞めてしまいます。誰もが

疲れ果て、相談できる雰囲気もないままの退職でした。

 

そんな状況に危機感を覚えた加藤弘康社長は、ここ2年ほど、社内整備

に重点を置くようにしました。例えば、店舗で褒められた従業員の行動

を社内SNSに掲載し、全員で共有。新店長には、社長が2時間講義す

る「社長塾」も実施しています。

 

今年3月23日は全店休業し、アルバイトも交えて表彰するイベントを

開きます。機会損失を含めると1000万円かかる計算ですが、「コミュニ

ケーションにける費用は削ってはいけない」と加藤社長。危機によって

働きがいの重要性を痛感したことが、今回のランクインにつながりまし

た。

 

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▼社長の考えがナゾ病

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経営陣がどんなに高い理想を掲げても、現場に伝わらなかったり、労働

実態からかけ離れていると、働きがいを高められません。結婚式場やレ

ストランを運営するディライトもこの問題に直面しました。

 

2013年、社員に対して匿名で実施したアンケートに書かれていた内容

は、会社と社長へのクレームであふれていました。

この時出口哲也社長の頭をよぎったのは2007年の事件。営業責任者が

部下十数人を引き連れて退職してしまったのです。もう二度と同じ思い

はしたくない、と、自分が変わる決意をしました。

 

まず全社員で共有する情報を拡充。経営陣からの情報発信を意図的に増

やしました。また、給与明細には毎月、社長の思いを綴った手紙を添え

るようになりました。経営陣と従業員の感情のギャップを埋めることで

一体感を作り出し、中規模企業部門11位に名を連ねました。

 

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▼先輩は絶対なんだ病

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一見密なコミュニケーションが取れているようで、直属の上司や先輩が

強すぎることが裏目に出てしまうケースも有ります。

大規模企業部門15位、スポーツクラブを運営するルネサンスがそうで

した。

 

同社の社員は体育会系がほとんど。体育会は先輩の発言や指導は「絶対」

という関係になりがちです。新入社員は「違う」と思っても口にできず、

弱音も吐けずに抱え混んでしまうことがありました。

 

そこで、所属部門外の中堅社員から面倒を見てもらう「サポート相談制

度」を導入。別部門の先輩社員が勤務時間外に悩みを聞きます。同じ部

署の先輩には聞きづらい内容でも気楽に相談できる、と好評です。

 

かつては入社3年までの離職率が30%前後だったルネサンス。これま

でも工夫はしていたものの、限界がありました。

ところが、サポート相談制度導入後は入社50人中退職者は1人だけ。

新入社員が働きやすい環境を整えたことが、今回のランクインの決め手

となりました。

 

一度は働きがい低下の病に陥りながら、策を講じてランクインした企業。

人手不足と言われる今だからこそ、部門間や経営陣と社員との関係を見

直し、働きがいを高める重要性は高いといえるでしょう。

 

 

出典:『日経ビジネス』2015年2月16日号

 



今日から始める善い会社の作り方

Date - 2015.02.13

今回は『日経ビジネス』より、社員の幸せを優先することによって「善

い会社」を追求している3社の事例をご紹介いたします。

 

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▼残業ゼロで「産める会社」

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多くの日本の企業が抱える、優秀な女性を活用しきれないという悩み。

化粧品を開発・販売する、ランクアップの取り組みからは、その解決策

が垣間見えます。

 

企業が短時間勤務や育児休暇制度を設けていても、実は出産や育児で退

職する女性が後を絶ちません。忙しい現場では、育休や時短の存在を迷

惑と思っているからです。制度だけを整えても現場で機能しません。

 

ところが、ランクアップは出産退職ゼロ。

就業時間は8:30~17:30で、仕事が早く終われば17:00での帰宅も認め

ています。全員が一般企業の時短に近い勤務のため、通常業務を続けな

がらの育児が可能なのです。

 

しかし、現在の環境にたどり着くまでには試行錯誤がありました。

当初の就業時間は18:30までで、残業を禁止しても19:00まで残る人も

多くいましたが、2011年に転機が訪れます。サマータイムの導入です。

仕事が終われば17:00の帰宅を認めたところ、皆が必死に仕事を終わら

せるようになったのです。

 

短時間業務を実現しつつ、ランクアップは9年連続で増収増益です。

定型業務はアウトソーシングし、社員が自分でしかできない業務だけを

残したことで生産性を高め、様々な情報に触れる時間を増やしました。

それにより創造性も高りました。その結果、30秒でベースメークが終

る「リキッドBBバー」が生まれ、ワーキングマザーの心を掴み、1ヶ

月で1万本を売るヒット商品になりました。

 

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▼社員を「家族化」

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名古屋名物、味噌カツで有名な矢場とん。

「休みを週1日に減らしたら、もっとお給料を出せますよ」

と鈴木拓将社長が語りかけるのは、子どもの産まれた社員とその家族。

「社員の休みを減らしても、理由が家族に伝わらなければただのひどい

会社。でも奥さんに直接理由を説明したら感謝される」と、家族に説明

する理由をこう語ります。

 

ある社員は、「会社や社長の電話番号も知っているので、何かあったら

すぐかけます。お母さんやお父さんやお兄ちゃんが増えたようなもの」

と屈託なく話します。良好な関係は、地道なコミュニケーションのたま

もの。鈴木社長と取締役の姉が分担し、毎月全従業員と面談、家族構成

まで把握しています。

 

鈴木社長は常に「良い会社にするためではなく、家族を幸せにするため

に働け」と社員に話します。社員の人生に遠慮なく入り込む、過剰なほ

どの家族主義が、矢場とん自体の強みにつながってもいます。

 

「一流の大衆食堂」。それが矢場とんの目標。

清潔さやサービスに妥協はしませんが、混み合えば笑顔で相席をお願い

するなど、大衆食堂を切り盛りするには様々な局面で人間力が問われま

す。「飲食業界に入る人には、自信がない人が多い」と語る鈴木社長。

だから従業員を「家族化」し、過剰なまでに親身に干渉することで人間

としての成長を促します。結果、それが矢場とんの成長につながる、こ

の循環が善い会社を作る仕組みの特徴です。

 

法政大学大学院の坂本光司教授は「会社の最大の使命は、社員を幸せに

することだ。それができない企業に、顧客を感動させる商品やサービス

は期待できない」と指摘します。

 

「善い会社」は一朝一夕に築けるものではありません。しかし、どんな

企業にもその資格はあります。大企業はもちろん、小さくても独自の理

念で「善」を追求する企業は少なくないのです。

 

 

出典:『日経ビジネス』2015年2月9日号



大きいものは儲かる

Date - 2015.02.06

今回は『日経ビジネス』より、「大きい物を作る技術」が失われつつある

日本の製造業において、その技術を磨き上げ成功した事例をご紹介いた

します。

 

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▼失われつつある「大きいものを作る」技術

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カドーというベンチャー企業が東京都千代田区にあります。2011年に

設立した電子機器製品の企画・設計を手掛けるファブレス企業です。

 

現在の主力商品は空気清浄機。同社が開発した「cado」が「後発である

にもかかわらず世界最高レベルの性能を実現した」として話題を呼んで

います。その浄化性能に対し、米国家電製品協会が日本メーカーで唯一

の最高評価を与えました。

 

創業者の古賀宣行社長はソニーOBで、「ウォークマン」の設計者として

歴代機種の開発に携わってきました。いわば、軽薄短小化のプロ。そん

な古賀社長が最も苦労したことが、「大きな部品を作れる企業を日本で

探すこと」でした。

 

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▼「大きな部品」が調達できない

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cadoの特徴は、アルミ素材を使った円筒状の大型フォルム。基本設計を

終えた後、部分の調達先を探しても見つかりませんでした。ウォークマ

ン開発時代からの旧知のメーカーは「小さい部品は得意だけど、大きな

部品は作る設備がない」と断られたそうです。

 

ようやくたどり着いたのは中国にある鍋の加工メーカー。先方と一緒に

試行錯誤を重ねながら、部品の製造、調達に成功しました。

 

古賀社長の元には今、さらなる大型化を求める声が届いています。

中国では日本よりも1ランク大きな機種が売れています。販売店からは

「大きな機種を出してほしい」という声がひっきりなしに届くといいま

す。

 

「日本の製造業では、長らく軽薄短小を追求してきた結果、大きなもの

を作る設備や技術が失われつつある」と古賀社長。第4次産業革命が始

まり、岐路に立たされたと言われる日本の製造業ですが、実際にはもっ

と単純な危機が進行していたのです。

 

cadoにも、細部では、古賀社長がウォークマンの設計で培った多くの軽

薄短小技術が使われています。例えば、フィルターの吸着性能を維持し

たまま幾重にも折り重なるように収納することで、清浄機能を大きく高

めることに成功しました。

 

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▼軽薄短小技術と重厚長大技術の融合

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軽薄短小技術を極めた日本メーカーが、“大きなものを作る技術”まで

併せ持てば何が起きるでしょうか。

その威力を身を持って示す企業があります。

高級オーディオメーカー、アキュフューズです。

 

1972年の創業以来、ハイエンドのオーディオ生産に特化してきました。

売上高21億円の中小企業ながら、薄型・小型化に注力する他社製品と

の差別化に成功し、生き残ってきたのです。

 

特徴のひとつは製品が高額なこと。

主力商品のプリアンプ、メーンアンプ、CDプレーヤーは安くても1台

30万円、高いものでは150万円以上するものもあります。それでも世

界中で7万人のコアユーザーを抱え、極めて安定した経営を続けていま

す。

 

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▼大きいものは真似されない

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アキュフューズが競合他社から競争を仕掛けられないのは、同社が持つ

「大きなものを作る技術」があります。

 

小型の音響機器では、どのメーカーも他社との差を打ち出しにくくなり

ました。でも、大型機は違います。

「音響機器は大きくなればなるほど音が良くなるが、同時に、音の良さ

を引き出すための本体設計や部品配置の難易度が加速度的に上がって

いく」と伊藤英晴社長は説明します。

 

長年磨き上げた設計技術で作った大型の筐体の中には、同じく長い時間

をかけて培った、軽薄短小の粋を極めたパーツが組み込まれています。

「模倣品を作ることはまずできない」と伊藤社長は自信を見せます。

 

金属加工から樹脂成型、組み立てまでモノ作りの場全体で「大きなもの

を作る技術」を磨き直し、その上でお家芸の軽薄短小化技術と組み合わ

せる。ここに日本の製造業が輝きを取り戻すための突破口の一つがあり

そうです。

 

出典:『日経ビジネス』2015年1月26日号